韓国叩きでアドレナリンを出しまくってきた安倍政権にとって、寝耳に水の展開だ。元徴用工訴訟に端を発した対韓輸出規制にブチ切れた文在寅政権が22日、通知期限の24日を待たずにGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を決めた。戦後最悪といわれる日韓関係のさらなる泥沼化は避けられなくなった。 

 会見した金有根国家安保室第1次長は、「日本政府が明確な根拠を示さず、韓日間の信頼喪失で安全保障上の問題が発生したとの理由から『ホワイト国』から韓国を除外し、両国間の安全保障協力の環境に重大な変化をもたらした」ことを理由に挙げ、協定維持は「韓国の国益にそぐわないと判断した」と説明。安倍首相が「韓国が言っていることは信頼できない」と見下し、歴史問題を安全保障にすり替えたのを逆手に取ってやり返してきたわけである。 

 現地で取材する国際ジャーナリストの太刀川正樹氏は言う。 

「安倍政権は大阪G20で日韓首脳会談に応じず、特使派遣による解決策提案も蹴り飛ばし、対話を呼び掛けた文在寅大統領の8月15日の光復節演説にも反応しなかった。韓国の尊厳を踏みにじるような安倍政権の一連の対応を文在寅政権は〈韓国を破滅させる陰謀〉ととらえています。文在寅大統領は〈困難に直面した時は原則に忠実に対処する〉を信念にしている。経済報復という奇襲をかけてきた安倍政権に対し、奇襲で応じたということです」 

 韓国の主要メディアも直前までGSOMIA破棄回避の見通しを報じ、この展開を読み切れていなかった。訪韓中の米国のビーガン北朝鮮担当特別代表が更新を要請するなど、米国は日韓の安保協力継続を繰り返し求めてきたためだ。 

 在韓ジャーナリストの朴承珉氏はこう言う。 

「韓米日同盟を重視する米国がギリギリまでGSOMIA更新を働きかける中、文在寅政権が破棄を選択したのは、世論の後押しもある。韓国の調査機関リアルメーター(7日発表)の世論調査では、延長せずに「破棄すべきだ」との回答が47.7%に達し、反対の39.3%を上回る結果でした。米国への説明材料になると判断したのでしょう」 

 報復の応酬がエスカレートし、日韓関係はのっぴきならないところまで来てしまった。 

■今後日本の安全保障にどんな影響があるのか 

 GSOMIAが締結されたのは、朴槿恵政権時代の2016年11月。核・ミサイル開発に猛進する北朝鮮への対応で連携するため、日本や韓国と同盟関係にある米国の要請で結ばれた軍事協定だ。GSOMIA破棄は日本の安全保障にどんな影響を及ぼすのか。 

 軍事評論家の前田哲男氏が言う。 

「GSOMIAによって維持されてきた日米韓3カ国による対北安保協力の一角は崩れる可能性があります。ただ、日韓の情報共有に関してはそれほど大きな影響は出ないのではないか。そもそも米国が仕切り、媒介の役割を果たしているため、軍事情報が一気に遮断され、決定的な欠落を招くような状況は考えにくい」 

 ただ確実なのは、安倍政権が最重要課題に掲げる拉致問題の解決がますます遠のいたことだ。 

「韓国は脱北者らを通じたヒューミント(人間を使った諜報活動)に強く、北朝鮮の生きた情報を逐次収集しています。その中には拉致被害者に関するものも含まれていて、日本政府の情報収集は韓国に負う部分が大きい。ここまで日韓関係がこじれた以上、韓国から積極的な情報提供は期待できないでしょう」(太刀川正樹氏=前出) 

 安倍のプライドのため、拉致被害者はまたも見捨てられることになるのか。 

日刊ゲンダイ 
19/08/23 17:00  
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